理事長ごあいさつ

 日本銃砲史の端緒は鉄砲伝来にある。伝来後、鉄砲術を指南する砲術師や鉄砲の製作に携わる鍛冶や鋳物師が各地に現れ、鉄砲は戦国時代の狩猟と戦いの在り方に多大な影響をあたえた。戦いのない江戸時代になると、砲術武芸が流行し、鉄砲は武備とともに武芸の道具と化して時が流れた。幕末期、海防の観点から西洋流砲術を採用する軍事の西洋化が加速し、さらに深化して激動の維新期を迎えた。

 以上は日本銃砲史のひとつの見方である。すでに通史では鉄砲伝来や長篠の戦い、それに西洋流の採用が話題にされるが、鉄砲史の課題を思いつく侭に列挙すると、鉄砲の存在、戦国大名や織田・豊臣・徳川政権の鉄砲政策、実戦における鉄砲の運用、砲術諸流の個別的解明、幕府・諸藩における和流と西洋流砲術の採用と普及の経緯、外国銃砲の移入と国産化の実態、西洋流の採用による戦術の変化など、まことに枚挙に暇がないほどである。

 現在、歴史に関する学会は数多いが、日本銃砲史の解明を目的とした学会は皆無である。本会は文献史学を基本としながら銃砲自体を対象とした即物的視点、理系の分析科学など学際的視点から日本銃砲史の課題の解明に挑戦することを目的としている。日本銃砲史に関心を抱かれる諸賢の本学会へのご参加をお願いしてごあいさつとしたい。

日本銃砲史学会 理事長

宇田川 武久